総合は感動や喜びを共有でき自信につながる時間

SPECIAL FEATURE 『総合』は自己肯定感にも共感にもつながる時間

明星学園小学校には、1年生から3年生まで、週2時間の『総合』の授業があります。身近な自然や人を通して、見つけ・感じ・考え・表現し・話し合うといった五感をフル活用して学ぶ、明星ならではの大事な時間について、2年生の担任で明星の卒業生でもある菅野先生にお話をうかがいました。

総合–藍染め–

あいぞめ

あいぞめ
  • 1
    水につけてかるくしぼる。
  • 2
    Tシャツをひろげてそっとアイのしるにつける。
    100数える。ういてこないようにしずかにおさえる。
  • 3
    タンクから出してかるくしぼる。
    Tシャツのすみまで空気をよく入れる。
  • 4
    Tシャツをひろげてそっとアイのしるにつける。
    100数える。ういてこないようにしずかにおさえる。
  • 5
    タンクから出してかるくしぼる。
    Tシャツのすみまで空気をよく入れる。
  • 6
    Tシャツをひろげてそっとアイのしるにつける。
    100数える。ういてこないようにしずかにおさえる。
  • 7
    タンクから出してかるくしぼる。
    Tシャツのすみまで空気をよく入れる。
  • 8
    水でかるくしぼる。
  • 9
    アイのしるが出なくなるまで水ですすぐ。
  • 10
    ビー玉とわごむをはずして
  • 11
    Tシャツをだっ水きに入れ水をしぼる。

Teachers’ Interview

Teachers’ Interview 菅野将希先生
明星学園小学校 2年1組担任菅野将希先生

体験による感動が
真っ白なページに刻まれ積み重なっていく

通常、小学校での『総合的な学習の時間』は3年生から6年生ですが、明星学園では1年生から3年生に『総合』の時間があります。明星学園小学校の『総合』とはどういう時間ですか。

菅野先生

『総合』には「ものを探る」「からだを探る」「生き物の飼育」「栽培」「ものづくり」「空間を探る」「人と人とのつながり」といった7つの分野があります。4年生からは社会や理科といった専門的な学習に枝分かれしていきますが、低学年のうちは子ども達を取り巻く身近な自然や社会の”もの”や”こと”について、その本質につながる個別、具体の事実を学びます。僕は卒業生で12年間明星学園に通いましたが、当時から『総合』はあり、教材なども引き継がれています。1年生から『総合』の時間があることで、自然に働きかける「目」が育ちますね。

自然に働きかける「目」とは?

菅野先生

例えば「こんな虫を見つけたよ」「こんな葉っぱを見つけたよ」とクラスのみんなに紹介する朝の会『みいつけた!』を1年生の最初から毎日続けて、自然に働きかける目を耕していきます。『みいつけた!』では見つけるものは何でもよくて、例えばどんぐりを見つけたら、どこで拾ったのか、なぜそこにあったと思うのかをクラスのみんなの前で話します。蛇の皮が落ちていた、虫をつかまえたとなれば、それが何なのか、どこにあったのか、なぜなのかを発信します。毎朝繰り返す『みいつけた!』は日常で、それが『総合』の授業につながって、子どもたちは徐々に自然に関して興味を持つようになっていきます。だから『総合』は、「今日は何するの?」と子どもたちが毎週楽しみにする教科です。

1年生の最初の『総合』ではどんな授業を行うのですか。

菅野先生

学校の近くの玉川上水へ歩いて行って、春の野草探しをします。一人一人春に咲く植物を見つけてきて、観察して絵を描いたり、気づいたことを紹介したりといった活動です。その後2・3年生でも4月の最初の『総合』は春の野草探しに出かけて、1年生とは違った視点で植物を見つけ、文章で書き綴ります。見つけておしまいではなくて、気づいたこと、触って感じたこと、匂いなどいろいろなことを書き綴ってノートを作りますから、その活動は国語と結びつきます。どの時間も必ず最後には自分が考えたこと、発見したことを書き綴る活動になっているのが『総合』の特徴です。

そのときの体験だけにしないわけですね。藍染めもTシャツを染める体験だけではないとお聞きしました。

菅野先生

藍の種から観察して、その種を子どもたちが植え、育った葉っぱで生葉染めをします。生葉染めは、ハンカチに包んで葉っぱを叩くと、最初は緑色の汁が付くのですが、それを洗って空気に触れさせて酸化させると青色になります。つまり緑の葉っぱから青色がもらえることを子どもたちは実際に体験して知るわけです。次に藍染めをするときには、子どもたちはなぜ緑色の液につけて青く染まるのかを先の体験で理解しています。

藍染め体験では、ビー玉や板をたこ糸や輪ゴムで縛ったTシャツにきれいな模様を染めあげていましたね。

菅野先生

絞り染めや板染めを見せて「こんな風にできるよ」と紹介はしますが、あとは子どもたちが自由に模様を考えます。染め上がったときの嬉しそうな表情はすごくいいですね。特に子どもたちは最初の生葉染め体験で感動します。僕は「こんなふうになるよ」とは一切言わず、「どんな色になるか、楽しみにやってごらん」と言うだけですが、「青になったー!!!」と大喜びします。子どもたちの真っ白な1ページに新たな感動が刻まれて積み重ねられていく気がする瞬間です。
感動のせいか、いつまでも自分で染めた服を着る子がいます。僕も2年生の頃に作った藍染めのハンカチをいまだにお弁当の包みに使っています(笑)。やっぱり明星といえば藍染め。僕の友達と話していても藍染めの話をすると懐かしさで盛り上がります。

本物と出会わせる、
自分の手で作れることを実感するのが
『総合』の時間

ものを作る体験だけでなく、なぜそうなっているのかを理解する。他にもそういった『総合』の授業はありますか。

菅野先生

2年生の和紙作りでは、まず市販の和紙を1人1台あるライトスコープを使って観察します。そして明星では教員によって違った授業のやり方ができるので、僕は洋紙と和紙を何種類か用意して、「これらは紙だけど、2つのグループに分けられるんだよ」と言って、子どもたちがちぎったり、くしゃくしゃにしたりしてグループ分けをします。そして「実はこっちが和紙という紙、こっちが洋紙という紙なんだよ」と話すところから始めます。和紙を観察すると繊維が絡み合っていて洋紙とは全然違う。そういった気づきをいっぱい挙げてもらうんです。 次に、明星には和紙の原料となる楮(こうぞ)という木があるので、その楮を切って、子どもたちがたたいて、繊維をバラバラにほぐして紙すきをして和紙を作ります。楮は、明星の『総合』を作り上げたといっても過言ではない元校長の一瀬先生が、最初は枝ぐらいの大きさから育て、今ではとても立派な木になっています。その楮の木を使って、最後は和紙を自分の手で作り上げます。本物と出会わせる、自分の手で作れることを実感するのが『総合』の時間です。

『総合』の時間を通して世界を広げていく明星の子どもたちに、どのような成長を感じますか。

菅野先生

1年生の最初は、まだ言葉を文章として書けないから自分の目で捉えたことや気づいたことを絵で描いていくんです。絵だけでなく、言語化し、自分の発見を皆に共有します。お友だちの気づきが、自分の気づきになるのです。例えば1学期はアサガオの様子を絵で描きますが、2学期・3学期になると、自分で気づいたことや感じたことを文章にして自分の思いを書き綴れるようになっていきます。明星には教科書がありませんが、2年生になると自分で感じたことや見つけたことを子どもたちがオリジナルの図鑑のように作り上げていきますよ。
それは国語の書き綴る力とも結びついています。「何々みたい」という比喩の言葉も語彙もどんどん増えていきます。教員が思いもしないような言葉が子どもたちから出てくると、これが『総合』の積み重ねの結果だと思いますね。その『総合』が土台となって、その後の理科や社会に生きていくのだと思います。自然に働きかける視点は大きく育ってつながっていきます。
加えて自分で見つけてきたもの、気づいたことを発信することがみんな大好きです。1年生の最初から35人ほどを相手に一人でしゃべる『みいつけた!』を続けていますから、みんなの前で自分の見つけたことを話し、質問を受け、それに答えるというやり取りが自然になります。自分の意見を言う、気づいたことを発信することに違和感は一切ないと思いますね。

低学年だからこそ、まだ個人差も大きいと思いますが、そこはどのように?

菅野先生

植物を見つけた時に、絵にこだわって一生懸命描く子もいれば、絵は簡単に描いて文章をしっかり書く子もいます。みんなそれぞれで、どちらが良いというわけではありません。絵のほうが簡単に思うかもしれませんが、僕は絵を見れば子どもがどんなことを見て対象を捉えたのかがよくわかるので、絵は描いてほしいと思っています。アサガオも葉っぱに毛がいっぱい生えています。茎もケバケバになります。そこを一生懸命たくさん描いていれば、絵からその子が注目しているものが何かを汲み取れます。個別、具体の事実を認め、個性を伸ばすようにしています。

自分の手を動かしたことは
大きくなっても心に残る

『総合』が、今の子どもたちだからこそ必要な授業だと思われるところもありますか。

菅野先生

今の子どもたちはやはり外遊びをしなくなっています。ゲームやYouTubeといった室内遊びが主流になっているので、藍染めの模様を作るために指を使って糸を結ぶことができない子もいます。その様子を見ていると、自分の頭と手を動かして何かをすることは大事だと思いますね。動画でも作り方を見ることはできますが、「こうやって作るんだな」と作った気になって終わってしまいます。それを自分で追体験する、実際に作ることが大事で、自らの手で作った、「和紙づくり」や「藍染め」は、大きくなった今も心に残ります。

卒業生の菅野先生は、明星での『総合』の学びが今の自分にどうつながっていると思いますか。

菅野先生

明星は、自分で「なぜ」を追い続けていく授業になっています。例えば掛け算も、掛け算という言葉から入らずに、「こういう仕組みがあるんだよ。それを掛け算と言うんだよ」と仕組みから理解することを大事にしています。だからこそ今の僕も、「なに?」「なぜ?」と思ったことは突き詰めますし、いろんなところにアンテナを張っています。自分の考えをしっかり持つことが大切だと思います。きっと小さい時に『総合』で培った五感を働かせて、物事に働きかけるという癖のようなものが残っているんでしょうね。

まさに小学校から明星で学ぶ良さですね。

菅野先生

明星で自分らしさを見つけられたというのはありますね。「自分は自分でいいんだ」と思わせてくれる先生たちに支えられて育ちました。今、僕の周りにはいろんな職に就いている明星生がたくさんいます。俳優、ミュージシャン、デザイナー、建築士などさまざまですが、自分らしさを見つけたことで、自分がやりたい自分の道を切り拓けたんだと思います。
『総合』の授業では常に自分の気づきがあり、もしかすると他の人は見えないところに気づくかもしれない。そして自分で気づかなかったことに友達が気づくと、なるほど!とみんなで共感し、認め合います。そういった共感が大事だなと僕は思うんです。『総合』は、感動や喜びを共有することができ、自分の自信にもつながる子どもたちにとって大事な時間です。

Message

Message 一瀬 清先生
元明星学園小学校校長一瀬 清先生

自分でデザインした世界で一番の作品
子どもたちの喜び、感動、人気は変わらない

『総合』での藍染め体験の良さは、子どもにとって自分でデザインした世界で一番のTシャツを着られる大きな喜びを味わえることです。割りばしやビー玉を苦労して外してみると、自分がイメージしたよりも必ず良いものになっていてびっくりすると同時に、とても嬉しくなって大きな達成感が得られます。丸い模様にするためにてるてる坊主のようにしたり、花火みたいな模様にするために糸でぐるぐる巻きにしたり、丸ばっかりでは面白くないからと板を使って直線模様をつけたり、バラエティーにあふれた模様を子どもたち自身が組み立てていく。そういう意味ではどんな子もデザイナー、世界でたった1枚の作品を作っています。

藍染体験は30年ほど前に私が始めました。当時、子どもの手でできて、喜びを感じられて、それを日常的に使える。なおかつ藍染めは古来よりある日本の伝統的な染めですから、今までもこれからも目にする機会があります。藍色は“ジャパンブルー”といって世界でも人気がありますし、藍染製品を見て「僕やったことある!」「私作った!」と思える可能性も高いはずです。それがとてもいいなと思いました。それに自分も藍染め体験をした上級生や卒業生が「あ、藍染めだ!」と思いを共有できる良さもあります。校内で必ず自分で染めた藍染めの服を着ている子どもがいるのもいいですね。
ずっと子どもたちを見てきましたが、藍染めでの子どもたちの喜び、感動、人気は変わらないと思います。これからも明星らしい体験の一つとして藍染めがあるといいですね。

Message

Message 鵜沢さん
2年生保護者鵜沢さん

綺麗なままでは何も身につかない
体験することで身につき方が全然違う

年上の子どもたちも藍染めのTシャツを作っていて、今ではかなり小さくなってしまったのに気合を入れるときやみんなで何かをするときに着て、とても大切に使っています。今日は初めてその藍染めの工程に参加させてもらい、とても良い時間を過ごせました。
明星では、保護者の皆さん本当に意欲的で、今日も募集人数を上回るボランティアのご希望がありました。子どもの学校生活に対してのサポートにはすごく熱い保護者が多いです。校内で常に保護者の姿を見かけるので「○○ちゃんのお母さんだ!」と子どもたちも安心感があるようです。

最近、改めて注目されている実学主義。勉強が第1ではなくて、五感を使って学ぶというものですが、明星の学びはまさにそういうものです。そこでは汚れることは大前提。綺麗なままでは何も身につかないんだなと感じます。それに教科書を見て覚えたことは一定期間を過ぎると忘れますが、体験していると記憶で蘇るので身につき方が全然違うと子どもたちを見ていて思います。

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