創立100周年記念動画「明星学園100年のあゆみ」
大草美紀(資料整備委員会)
照井猪一郎先生が学園創立25周年の折に発表した『明星誕生ものがたり』は、その後も歴代の校長によって紹介されて来た資料です。お読みになったことのある方も多いのではないでしょうか。冒頭の「呱々の声」は、明星学園の原風景を詩的に描いた名文です。
「呱々の声」
大正13年2月29日、むさし野はまだふかぶかと冬のとばりの中に眠っていた。
霜柱にふくれ上がった麦畑を、一足一足かみしめるようにきざんで行く4人の一団があった。一行はぽくぽくの黒土の上をとりつかれたもののようにむさぼり歩いた。
畑中の小高い一地点に最後の歩みをとめた一行は、やおらかついで来た一本の標木を打ち立てた。
「明星学園建設地」……したたるような墨あとがあざやかに白木のおもてに読まれた。
彼らはそれをかこんでいっせいに大空をふりあおぎ、さて思い深げにまわりの森や林をながめまわした。誰からともなく無言のほほえみがかわされた。
大海の底のようにしずまりかえったひと時だった。真昼の太陽は真珠色のスポットをこの謙虚な開拓者たちの上におとした。
輝く日光、すみきった大気、ゆたかな土壌、それは彼らの久しくあこがれていた求道(ぐどう)の聖地であった。
池近く富士遠き森の台地――彼らはこの日この地に真教育の精舎の礎(いしずえ)をすえた。
照井猪一郎『明星誕生ものがたり』
文芸部発行『明星・25周年記念』(1949年11月15日)に初出
この詩に描かれた学園誕生前の様子は、残念ながら写真などで確かめることができません。資料整理の傍ら、私はかねてよりこの詩を映像化したいと考えていましたが、100周年を機に、この企画が実現することになりました。
まず、文章を頼りに絵を描き起こさなければなりません。100周年記念誌編集委員の堀内雅人先生に、アニメーション制作ができる在校生・10年生の近藤優実さん(完成時は11年生)と繋いでもらいました。近藤さんとは2023年秋から打ち合わせを重ねて、絵のイメージを創りあげていきました。私の構想では単色の線画のようなシンプルなものでしたが、近藤さんの発想によって色鮮やかな作品へと進化していきました。
完成した映像「明星学園100年のあゆみ」は100周年記念式典のなかで上映し、在校生をはじめ多くの方にご覧いただきました。
ここではいくつかの場面を切り取って紹介します。
なお、映像の題字は12年生の菊池寛太さんに揮毫いただきました。
映像は金色に実った初夏の麦畑から始まります。
ざわざわと穂を揺らす麦畑の背景に広がるのは、うっそうとした井の頭公園の森です。
明星学園ができる前は、このような風景が広がっていた井の頭でした。
季節が変わり、麦畑は霜に覆われた冬景色に。一羽の鳥が森へ向かって飛んでいきます。
照井猪一郎先生・げん先生夫妻は、この頃すでに井の頭に住んでいました。学園建設予定地のすぐ近くです。
この日(猪一郎先生の詩には「2月29日」と記されていますが、赤井先生の記録によると正確には1924年3月16日・日曜日)、照井宅に集った同人は、げん先生が「明星学園建設地」と墨書した白木の杭(標木)を担いで、麦畑へと向かいました。
麦の芽はまだ寒いこの時期に伸び始めます(アニメーション制作にあたって、麦の生育についても調べました)。創立者赤井米吉先生の記録にも、「畑の麦は2、3寸(6~9cm)に伸び、標木は麦畑の真中に建てた」とあります。
伸び始めた麦の芽が畑の黒土の上に鮮やかな緑のストライプを描いています。
畑中の小高い一地点に立てられた一本の標木。
満足げに標木を囲む4人に、真昼の陽光がまるでスポットライトのようにふりそそぎます。
やがて陽は西に傾き、麦畑に立てられた標木が地面に長い影を落とします。
この頃、猪一郎先生は天体観測に熱をあげていました。そのため、星が美しく見え、天文台(現・三鷹市大沢の国立天文台)にも近かった井の頭の地に居を構えたそうです。赤井先生も「“明星学園”と名付けたのは、学園の候補地探しの帰りに井の頭の森の上に輝く星の美しさに驚かされたからだ」と、語っておられます。
夕闇が訪れ、森の木立の上に星が輝きはじめました。
ひときわ明るい星が輝いています。
創立同人の先生方は学園の名の“明星”を金星とは限定せず、すべての天体をさしていました。
アニメーションに合わせた詩の朗読は、照井猪一郎先生の孫の照井伸也小学校校長(49回生)にお願いしました。
ここでアニメーションから切り替わり、ここからは昔の明星学園内や通学路の写真と、同じ場所の現在の映像とを交互に紹介しながら、100年間の移り変わりを描いていきます。
BGMは卒業生の増田太郎さん(54回生)・中島ありかさんの二人が、この動画のために作曲してくださいました。映像とぴったり合った抒情的な音楽にも注目してください。
現在の学園を上空から撮影してくれたドローンパイロットは柳瀬雅史さん(51回生)、後半の映像撮影と全体の編集は大草鷹平さん(79回生)にお願いしました。制作に関わってくださった皆様に改めて感謝申し上げます。
この映像「明星学園100年のあゆみ」は、学園公式YouTubeにてご覧いただけます。
映像を通じて、明星学園の原風景と100年のあゆみを多くの方に感じていただければ幸いです。
(文責:資料整備委員会 大草 美紀)