明星学園小学校では、さまざまな
国際交流を行っています。そのひとつが南オーストラリア州アデレード郊外にある姉妹校Woodend Primary Schoolとの相互受け入れです。特集記事では、9月にオーストラリアからやってきた児童14名と過ごした様子と共に、明星学園小学校の「国際交流」について担当の小関先生に話を聞きました。
ようこそ!明星学園小学校へ
オーストラリアにある明星学園の姉妹校Woodend Primary Schoolの5・6年生14名が明星学園小学校にやってきました。この日から4年生・5年生・6年生のクラスに、Woodendの子どもたちが数名ずつ合流。明星学園小学校での学校生活をスタートさせます。
各教室は、黒板に歓迎のメッセージやイラストが描かれ、教室内も楽しく飾り付け。Woodendの子どもたちの緊張をほぐすように、明星っ子が明るく元気に迎え入れ、早速各クラスで自己紹介やゲームが始まりました。お互い手探りではあるものの、言葉よりも身ぶり手ぶりでどんどん交流します。
全校児童で歓迎!
圧巻の和太鼓演奏をみんなで聞こう
3時間目は体育館に全校児童が集まり、Woodendの子どもたちへの「Welcome Ceremony」が行われました。明星学園の子どもたちによる進行のもと、Woodendの子どもたちの一生懸命な日本語での自己紹介、両校の校長先生のあいさつなど、歓迎ムードでいっぱいです。最後には日本の芸能同好会による和太鼓演奏も披露され、お腹に響く太鼓の音に「日本文化」を感じる時間となりました。
一緒に学べば
それがコミュニケーション
授業では明星の子どもたちが積極的にサポート。明星っ子は日本語で話しかけ、Woodendの子は英語で話しますが、手を使ったりボディランゲージを加えたりすることで難なくコミュニケーションをとっています。休み時間には校内を案内し、昼休みにはお箸の使い方もレクチャーしていました。休憩時間には1年生や2年生もWoodendの子の周りに集合。自分たちの遊びを紹介したり仲間に誘ったりしながら、Woodendの子どもたちの自然な笑顔を引き出していました。
日本で、低学年のうちから
児童全員に国際交流の機会
明星学園小学校の国際交流プログラムについて教えてください。
小関先生明星学園小学校では、2つの海外の学校と姉妹校提携を結んでいて、相互受け入れを行っています。ひとつは、南オーストラリア州アデレード郊外にあるWoodend Primary Schoolで、もうひとつは台湾の台中にある東海國民小學(Dong Hai Elementary School)。毎年、希望した4~6年生の児童15~20名がそれぞれに参加しています。(※)
一方、留学児童の受け入れは、各校と毎年交互に行っています。2023年度は台湾、2024年度はオーストラリアからの留学児童受け入れを行いました。
※オーストラリア留学の対象は4・5年生で3月に12日間、台湾留学の対象は6年生で12月に5日間実施。
国際交流プログラムはいつ頃から始まったのですか。
小関先生オーストラリアとは2006年度から、台湾は2018年度から始まりました。最初は本校の児童の留学から始まって、その後受け入れもスタートし、コロナ禍を除いて毎年実施しています。英語圏ではない台湾との国際交流を始めたのは、英語が第一言語の国に行くことだけが重要ではないからです。これからの時代は、中国をはじめ東南アジアなど、英語を第二言語とする者同士のコミュニケーションも求められます。
また、今では日本から海外へ行く留学プログラムは一般的となっていますが、小学校で留学児童の受け入れを行っているところはまだ少ないと思います。しかし、本校が国際交流で目指すのは、留学に行く子どもたちだけではなく、行かない子も含めた「全校児童が国際交流を体験する」こと。日本にいながら、低学年のうちから、児童全員に国際交流の機会が与えられていることは、明星学園小学校としてのとても大きな特徴です。
英語学習のモチベーションを高め
留学までに子ども自身を成長させる
子どもたちにとっては、たくさんの学びや成長があることでしょう。留学体験から得られる学びや成長について教えてください。
小関先生この短期留学では、「劇的に語学力が伸びて、帰ってきたらペラペラになっていた」ということはありえないし、それを期待するものでもありません。得られる学びや成長は、2つあります。
ひとつは、子どもたちの英語学習のモチベーションを高めてくれること。留学先では、「もっと話せたらどれだけ楽しいだろう」「相手の話すことを理解してあげられなかったことが申し訳なかった」など、いろんな感情が芽生えます。それが次の「もっと学びたい!」の原点になるのです。ここが、一番期待したいところですね。留学中に、子どもたちが次の目標や興味の扉をどんどん開いていくための材料を見つけてくれたら、それが何よりも価値のあることではないでしょうか。
もうひとつは、留学に行くまでの期間の子どもの成長。僕はこれこそ教育的価値がすごく大きいと思っています。海を渡って、言葉の通じない国へ行って、ひとりでホームステイをする。そのためには、児童自身ができるようになっておくべきことがたくさんあります。留学前に自分は何をしておくべきか。できるようになるために努力できるか。それがすごく問われるんです。そこに子どもの大きな成長の機会があります。
留学前に、子どもはどういったことをできるようになる必要があるのですか。
小関先生例えば、朝起きて「おはよう」と笑顔で言う、人の目を見て話す、部屋の片づけをする、洗濯物をたたむ、食事したらお皿を下げる……といったことです。それがいま日本でできていない子は、ホームステイ先でもできません。子どもたちには「こういうことをできないと、留学先で困るのは自分。だから今のうちにできるようにしておこう!」と話します。そう話すと、子どもたちもみんな納得しますね。留学準備は、約半年前から始めるので、子どもたちはその期間で成長できるように努力します。
そこで大事なのが、本人の意志。「親に言われたから行く」では、留学前のこのプロセスの大変さに耐えられないし、行ってからのプレッシャーと苦しさにも耐えられない。「自分で行くと決めた」ことが、最終的には留学先で折れそうになる心を支えてくれます。最初の数日間は言葉が通じない苦しさや孤独感をいっぱい感じるのが留学なのです。
自分で留学すると決める。そして決めた以上は、準備をしっかりとやっていく。それが、子どもの責任感、自立心を育ててくれます。そこを乗り越えた子は、ホームステイ先でも、苦しさや孤独感を感じながらも頑張ってやり遂げてくれますね。短期留学というと、行った先での体験や成長に注目が行きがちですが、その前段階の数か月の準備のプロセスが実はとても大切な成長する期間なのです。
「留学前」から子どもたちは成長するわけですね。同時に保護者が心がけるべきことはありますか。
小関先生留学前の準備期間から、手を出しすぎたり叱ったりせずに、見守っていただくことをお願いしています。そして、少しでもできたらたくさん褒めてあげてくださいとお話しています。
この留学プログラムは長く続いていて、特にオーストラリアとは15年以上も続いています。ホストファミリーや向こうの学校に大きな迷惑をかけてしまうと継続していくこと自体が難しくなりますから、留学する児童と保護者には、そうならないように努力する大切さを理解してもらいたいのです。これまで本校の先輩児童たちが、留学先で頑張って良い関係を築き繋いできました。そのバトンを今後も繋いでいってほしいのです。
留学で見せる普段見せない顔
留学で入る海外への興味のスイッチ
留学児童の受け入れでは、子どもたちにどんな学びや成長がありますか。
小関先生低学年のうちから、海外からの留学児童と触れ合う機会が得られます。同じ教室で密に交流するのは4~6年生ですが、1~3年生もウェルカムセレモニーに参加しますし、廊下ですれ違ったときに言った「ハロー」が通じた!など、うれしい体験が心に残ると思います。そして、それが4~6年生になったときに「留学にチャレンジしてみよう」という意欲に繋がります。つまり、留学児童を受け入れる校内での国際交流体験が、“留学への意欲や海外への興味を生む種まき”になっているんです。
国際交流は、限られた人たちのものだけではありません。「日本に住んでいるから日本語だけ話せればいい。交流できなくていい」では残念です。いま日本には、海外から多くの観光客が訪れるようになりました。またこの先、日本は海外との交流なしでは国際社会の中で生き残っていけないでしょう。そこで僕らは、海外の方をどう受け入れて、日本の文化や魅力を伝えていくのか、守っていくのかが大事になってきます。それは、コミュニケーション力なしには行えないと僕は思っています。
国際交流プログラムを通して、子どもたちの様子や成長ぶりで印象的に感じていることはありますか。
小関先生例えば、普段は少しやんちゃでわんぱくな子が、留学先でいちはやく馴染んで友達をつくったり、人気者になったり、ホームステイ先の家族ととても仲良く過ごしていたりすることがよくあります。子どもは多面体でできていて、家での顔、学校での顔、習い事での顔……いろいろな顔を持っています。留学先で、普段は見せていなかった、輝いた一面を見せてくれたときには、今まで学校でその側面を引き出してあげられなかったことを申し訳なく思うと同時に、新しい一面を見られて嬉しくなりますね。
また、留学経験を経て、「再び海外に行きたい」、「もう一度留学したい」と、スイッチが入った子も多く見てきました。留学児童の受け入れがきっかけで、「今度は自分が留学に行きたい」と考える子も多いですね。というのも、最初はオーストラリア、台湾と聞いても子どもたちのほとんどはどういう国なのかをよく知りません。でも、留学児童との交流でその国が身近に感じるようになり、「行ってみたい」と思うようになるのです。
小学校で実際にその国に行ってみる
それが真の国際理解教育
小学生のうちから、海外や留学への興味を抱けるわけですね。
小関先生「その国のことをよく知らない」という段階で行くことも、実はすごく大事なこと。「行ってみたら楽しかった」、「やさしくしてもらった」、「広くてきれいな国だった」などポジティブな印象を持つことで、さらにその国への興味が湧いたり、次の交流に繋がったりします。
帰国後にその国の歴史を調べていくと、日本とその国との過去のネガティブな歴史を知ることもあるでしょう。でも、それでその国に対する印象が悪化したり、嫌いになったりすることはないのです。なぜなら最初の出会いが真っ白なところから始まり、ポジティブな印象をすでに得ているからです。これからはその国と日本が手を取り合って「一緒に成長していかなきゃいけない」という考えになるはずです。
過去の暗い歴史を学んでからその国を訪れると、先入観が植え付けられてしまい、純粋な感情を持ちづらくなってしまいます。そういう意味でも、小学校のうちに実際にその国に行ってみることはとても意義のあること。真の国際理解教育です。大袈裟ではなく、国際交流は世界平和への一歩。なぜなら、自分が大好きな友だちや家族のようなホストファミリーがいる国に「ミサイルを打ち込もう」、「戦争して国土を奪おう」などと絶対に思わないからです。
明星学園小学校の国際交流における今後の展望は?
小関先生これまで継続してきたこの国際交流プログラムを今後も10年、20年と継続していくためには、学校側の体制、教員人材の確保・育成も重要です。特に本校の場合、渡航時の添乗や現地滞在中のサポートを外部企業に依頼していません。私たち教員が直接、留学先の学校やホームステイ先と密なやり取りを行い、意見交換を行い、良好な関係を築きながら継続してきています。空港で家族に「行ってきます」をしてから、「ただいま」をするまで、全て教員のみの引率で実施しています。そして教員だけホテルに滞在することもしません。英語ができない教員も含め、引率教員も1人ずつ相手校の先生のお宅にホームステイをします。教員たちも子どもたちと同じ目線で、同じ苦労と喜びを分かち合います。普段の学校生活の中で構築される教員と子どもたちとの信頼関係、そして保護者の強力なサポートがこのプログラムの根幹にあります。「自分のことをよく知っている先生たちがそばにいてくれる安心感の中で、子どもたちが留学にチャレンジする」というこの哲学は、明星学園だからこそできることであり、今後も絶対に守っていくべきものだと思っています。また、保護者の皆様には、海外からの留学児童受け入れのホストファミリーとして、深いご理解と多大なご協力やご支援をいただいてきました。価値あるこの教育プログラムを途切れさせることのないように、これからも努力していきたいたいです。